妊娠中の運動を安全に行うために必要な知識〜科学的な根拠に基づいた、運動の種類や頻度、運動強度〜

妊娠中は運動をした方がいいと言われるけど、どんな運動をどの位の頻度や強度でやったらいいのでしょうか。

妊娠して産婦人科などを受診すると、母親学級などで、ウォーキングやマタニティヨガなどの運動を勧められることが多いと思います。

運動はした方がいいのはわかるけど、具体的にどんな運動をどれ位やったらいいの?

全ての妊婦さんが運動をした方がいいの?

どんな事に注意して運動したらいいの?

など、疑問に感じている方もいらっしゃるかと思います。

そこで、カナダにおける妊婦さんの運動に関するガイドラインが出されていましたので、それに基づいて妊娠中の運動について説明したいと思います。

このカナダのガイドラインは、カナダの運動生理学会やカナダ産婦人科協会、カナダ助産師協会、スポーツと運動医学に関する団体などの専門家によって医学的な根拠(EBM:Evidence Based Medicine)を基に作成されています。

全ての妊婦さんが運動を行ってもいい訳ではない

まず、妊娠中は全て妊婦さんが運動を行ってもいいというわけではなく、当然、母体の状況によって、運動の効果よりもリスクの方が上回ると判断される場合は、運動を行うことはできません。

以下に当てはまる方は、絶対に妊娠中に運動を行ってはいけません。

(運動に対する絶対禁忌)

  • 羊膜破裂
  • 早期分娩
  • 原因不明の持続的な膣出血
  • 妊娠28週後の前置胎盤
  • 子癇前症
  • 不全頚管
  • 子宮内胎児発育遅延
  • 三つ子以上の多胎妊娠
  • コントロール不良な1型糖尿病
  • コントロール不良な高血圧
  • コントロール不良な甲状腺疾患
  • その他重篤な心血管障害や呼吸器障害、全身性障害など

また、以下に当てはまる方は絶対に運動を行ってはいけないというわけではありませんが、運動を行う前に必ず担当医の先生によく相談してください。

(運動に対する相対禁忌)

  • 習慣性流産
  • 妊娠高血圧
  • 自然早産の病歴
  • 軽度/中等度の心血管疾患または呼吸器疾患
  • 続発性貧血、症候性貧血
  • 低栄養状態
  • 摂食障害
  • <28週後の双子の妊娠
  • その他重大な病状

以上の項目のどれか一つでも当てはまる方は、運動を行ってはいけない、もしくは注意して行う必要がありますので、必ず担当医の先生に相談するようにしましょう。

妊娠中の運動による効果

妊娠中、特に問題がない方であれば、全く運動をしないよりも運動をした方が、母体にとって良いことが科学的に証明されています。これはカナダのガイドラインだけでなく、世界中のガイドラインで妊娠中の運動を推奨しています。

過去30年間を遡ってみると、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症、子癇前症、巨大児などの妊娠合併症が上昇してきていますが、これは母親の肥満率の上昇が原因と言われています。

こういった妊娠中の合併症を減らし、母親と胎児の健康を維持していく上で、運動の重要性が指摘されています。

どんな運動をしたらいいのか

最もおすすめな運動は、有酸素運動とレジスタンストレーニング(筋トレ)です。

運動は少なくとも週に3回、可能であれば毎日行うことを推奨しています。時間にすると、1週間で150分間以上の運動時間を確保することが大切です。

1週間で150分以上の運動時間を確保することで、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症、子癇前症の発症率が有意に低下したという研究結果もあります。

しかし、1週間の運動時間が150分に満たなければ効果はないのかというと、そういうわけではありません。

1週間の運動時間が150分未満であっても、運動による効果は得られることがわかっています。

しかし、逆に1週間の運動時間が150分を大きく上回るような過度な運動は、運動による効果やリスクがはっきりとわかっていませんので、時間的にも運動強度的にも過度に運動をやり過ぎることは避けた方が良さそうです。

運動の種類は有酸素運動だけでなく、レジスタンストレーニングも組み合わせた方が、有酸素運動のみ行った場合よりも、運動効果が高くなることが科学的に証明されています。

そのため、転倒に注意しながら、スクワットやかかと上げなど、脚の筋力トレーニングも合わせて行った方がいいでしょう。

また、ヨガや穏やかなストレッチも有効であるとされています。

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有酸素運動はどれ位の運動強度でやったらいいのか

ウォーキングなどの有酸素運動を行う場合、運動強度は何を目安にすればいいのでしょうか。

本ガイドラインでは、心拍数を基準にする方法が書かれています。

ガイドラインでは出産年齢が29歳以下の場合と、30歳以上の場合に分けて示されています。

出産年齢が29歳以下の場合

  • 低強度の運動:心拍数は102〜124回/分
  • 中等度の強度の運動:心拍数は125〜146回/分
  • 高強度の運動:心拍数は147〜169回/分

出産年齢が30歳以上の場合

  • 低強度の運動:心拍数は101〜120回/分
  • 中等度の強度の運動:心拍数は121〜141回/分
  • 高強度の運動:心拍数は142〜162回/分

ウォーキングなど、有酸素運動の運動強度は、その人にとっての最大限の運動強度の40〜60%程度の運動強度が、安全かつ運動効果も高くなります。

この運動強度は、心拍数からも推定することができます。

まず最大心拍数を求めます。

最大心拍数は220ー年齢で求めることができますので、例えば30歳の場合、220ー30で、190回/分がその人の最大心拍数になります。これは男女共同じです。

最大心拍数がわかったら、「(最大心拍数ー安静時心拍数)×運動強度+安静時心拍数」の計算式で、運動時の最適な心拍数を計算します。

例えば30歳で安静時心拍数が60回/分の方の場合の、50%程度の運動強度の心拍数を知りたい場合、「(190ー60)×0.5+60=125回/分」となります。(60%程度の運動強度にしたい場合は、運動強度のところを0.6にします。)

運動時の脈の測り方は、一定時間運動を行った後、立ち止まって手首のところで15秒間の脈を数えます。その回数を4倍して、10秒をさらに足して出た回数を運動時の心拍数の目安にします。

今は脈拍数がすぐにわかる活動量計などもお手頃な価格で売られていますので、そういった活動量計を利用した方が簡単ですね。

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心拍数を目安にする以外にも、主観的な運動強度の指標として、運動しながら会話ができる程度の、軽めの運動強度を目安にする方法もあります。

ウォーキング中に会話するのもきついほどの運動強度は、強度が高過ぎる可能性がありますので、運動中でも会話ができる程度の強度に抑えて運動するようにしましょう。

運動を行う上での安全上の注意点

妊娠中に運動をする上での安全に関する一般的な注意事項を以下に示します。

高温や多湿環境下での運動は避けるようにしましょう

脱水等を予防するためにも、高温多湿環境下での運動は避け、運動中は適度な水分補給を心掛けるようにしましょう。

コンタクトスポーツや転倒の危険のある運動は避けるようにしましょう

当然ですが、妊娠中はバランスが不安定になりやすく、転倒の危険性も高まります。

人と接触する可能性のあるスポーツやバランスを崩しやすい運動は転倒を防ぐためにも避けるようにしましょう。自転車も乗らない方がいいでしょう(エアロバイクなど固定された物は可)。

スキューバダイビングは避けましょう

胎児は潜函病(減圧症)やガス塞栓症から保護されていないので、妊娠中にスキューバダイビングはするべきではありません。

高地環境での運動は避けましょう

高地環境下では身体にかかる負担も大きくなるため、高地環境下での運動は避けるべきです。しかし、適切な順応があれば、高度1,800〜2,500mまでであれば中等度の運動強度の運動は、母体や胎児に大きな影響はないとされています。しかし、バランスが不安定になり、転倒する可能性があるような場所でのハイキングなどは避けた方がいいでしょう。

競技としてのスポーツ活動を行なっている場合は、担当の産婦人科医としっかり相談しましょう

日々のエクササイズとしてでなく、競技レベルでのスポーツを検討している場合は、運動のリスクなどをしっかりと理解し、必要に応じて内容を修正するためにも、担当の産婦人科医としっかりと相談するようにしましょう。

以下の症状が現れた場合、直ちに運動を中止して、担当医に相談しましょう

  • 休んでも改善しない持続的な過度の息切れ
  • 激しい胸の痛み
  • 規則的かつ痛みを伴う子宮収縮
  • 膣からの出血
  • 羊膜の破裂を示す膣からの持続的な羊水の喪失
  • 安静にしても改善しな持続的なめまい、または失神

有酸素運動は腹直筋離開の予防にもなる

腹筋にもいくつかの種類がありますが、一番表層にある腹筋が腹直筋です。シックスパックとも呼ばれたりする腹筋ですね。

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この腹直筋は左右で二つに別れていますが、その左右の腹直筋は真ん中で腱でつながっています。

しかし、妊娠によっておなかがどんどん大きくなってくると、腹直筋が引き伸ばされ、左右の腹直筋をくっつけている腱が離開し、左右の腹直筋が分離してしまうことがあります。

これを腹直筋離開と言います。

腹直筋離開がひどい場合は、腹直筋の真ん中に指を入れると、腹直筋の間を通って、指が中に入ってしまうこともあります。

一度腹直筋離開を起こしてしまうと、元の状態に戻すことは困難になるため、予防することが大切です。

ウォーキングなどの持続的な有酸素運動は、腹直筋離開の発症低下と関連することがわかっています。

また、腹直筋離開を起こした場合、仰向けの状態からの上体起こしなどの腹筋運動は絶対にしないようにしましょう。腹直筋の離開を助長させてしまう可能性があります。

妊娠中は靭帯が緩みやすくなるため、怪我に注意する必要があります

ガイドラインの中でも指摘されていますが、妊娠中はリラキシンという靭帯を緩める作用のあるホルモンが分泌されます。

これは胎児が産道を通りやすくするために骨盤の靭帯を緩める目的で分泌されるホルモンですが、このホルモンは骨盤だけでなく全身に作用します。

リラキシンは靭帯を緩めて関節同士の繋がりがルーズになりやすくなるため、捻挫などの怪我に注意する必要があります。

運動中の怪我を予防して安全に運動するためにも、靴選びは大切です。

運動用のスニーカーは、靴としての機能をしっかりと有しており、かつ自分の足に合ったスニーカーを選ぶようにしましょう。

また、妊娠中はバランスが不安定になりやすいので、運動以外の日常で履く靴も、可能な限りスニーカーなどの安定した靴を履くようにした方がいいでしょう。

ハイヒールなどの不安定な靴は、バランスを崩しやすく、捻挫などの怪我の原因にもなりますので、妊娠中は出来るだけ履かないようにしましょう。

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可能であれば、自分の足に合った、土踏まずをしっかりとサポートしてくれる働きのあるインソールを使用すれば、関節同士が安定しやすくなるため、捻挫などの怪我を予防することも可能になります。

終わりに

妊娠中は、特に運動を制限しなければいけないような合併症がなければ、過度の安静は逆に妊娠中の合併症を起こしてしまう可能性が高まってしまいます。

より良い状態で出産を迎えるためにも、安全に配慮した上での運動はとても有効です。

もちろん運動の絶対禁忌や相対禁忌もあるため、妊娠中の女性全ての方が運動ができるわけではありませんが、運動の効果や禁忌などを十分に理解した上で、適切な強度で行う運動は、母体や胎児の健康を考える上でも重要です。

運動に対して過度に不安になるのではなく、担当医の先生などに相談して、安全に運動を楽しむようにしましょう。

参考文献

Michelle F Mottola, et al: 2019 Canadian guideline for physical activity throughtout pregnancy. Br J Sports Med, 2018; 52:1339-1346

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